私はその実状を変えることが出来れば、きっと日本の殺処分を無くすことが出来き、それだけでは無い社会の大切な未来が開けると思っています…。
マルと散歩に出ました。久しぶりです。帰省の時はマルを中心に、山間の田園風景を眺めながらよく家族で散歩しました。とりわけ子供たちは大喜び、マルと一緒にはしゃいだ姿は今も忘れません。今は日も暮れ、夕日の赤見が消え、美しい星空に変わっています。輝く星々、どんなに着飾った人工物でも敵わない、その美しさは心に強く響きます…。マルと一緒に歩く道筋、都会の虚しさを思い出しつつ、もちろんですが言葉を交わす訳でも無いマルの後ろ姿を見ながら掛け替えのない大切な時間を感じていました…。
「そうか、まだまだおばあちゃんのところに行くのは早いか、じゃあ、しっかり頑張って新しい飼い主さんを見つけるんだよ」「…」「これは、感染予防の注射だから、これを打てば譲渡会に出られるから、安心だよ」マルは目を丸くして、獣医師さんを見つめ、大人しく注射を打たれました。
「昨日、電話をしたものですが、心当たりを当たったのですが見つける事が出来ず、どうしても明後日には、一度、東京の自宅に戻らなくてはいけないので、一時的に預かっていただく事は出来ませんか?」
「話は聞いています。収容の条件にはあたりますが、一時預かりとは?」
「マルは絶対に殺処分にはさせたくないので、私がここに戻りマルを引き取りたいと思っていますので」
「そうですか。でも、そんな簡単に、本当に出来ますか?」
「マルは絶対に死なせたくないですから、私たちが今の仕事を辞めて母の家に戻ることでマルの命を繋げるのなら、その為には何でもします」
「そうですか。では、私の話しも少し聞いて下さい。私はこの愛護センターに所長として赴任して来たばかりですが殺処分に関しては反対派です。そして、社会があれば必ず、孤児は発生すると認識しています。単に蛇口を絞るように発生源に拘ったところで、いつまで経っても殺処分を無くせないことを身に染みて知っています。その大切な命、社会に託された責任はこの愛護センターにあると考えています。これからは、全力を尽くし、収容された犬猫の里親さんを見つける命を繋ぐ場所として、その責を担っていきます。お気持ちはお察し致しますが、職を辞めて、こちらに戻るとは言ってもご家族がいらっしゃるとお聞きしておりますから、仕事だけでは無く様々な問題をクリアにする必要性を強く感じます。ですから、私たちにタロ君を託すという事を考えてはいかがでしょうか?もちろん、お母さんの愛犬、息子さんが引き継ぐという責任は有るかも知れませんが、私は社会の一員として人生を全うされたお母さん、そのお母さんの想いを、社会が繋ぐことも大切な事だと思っています。」
「…、逆に怒られるとばかり思っていましたので、本当にありがたいお話でした。ただ、マルを引き取ると決心していましたので、まだ…。考えがまとまらなくて…」
「いずれにしても、どうぞ、マル君は連れて来て下さい。直ぐに里親さんの募集を掛けるという訳でもありませんから、じっくりと家族とご相談しながら決めて下さい。」
「ありがとうございます。本当に予想外のお話でしたので、なんて言って良いのか…ありがとうございます。」
「確かに全国のセンターが命を繋ぐことを重視しているかと言うと、何とも言えません。やはり、前任者の様に蛇口を絞ると言って、極力、収容数を減らす事を目指すセンターも確かにあります。そんなセンターは、お母さんの様に犬猫たちと助け合い、共に暮らし、先立ってしまった人々の事さえ、無責任な飼い主の範ちゅうに数え、その大切な人々の営みさえ、社会悪の様な扱いをしています。私はその実状を変えることが出来れば、きっと日本の殺処分を無くすことが出来き、それだけでは無い社会の大切な未来が開けると思っています…。余計なこと言ってしまいましたが、どうぞ、安心して下さい」
「私もマルの目を見るたびに、都会での日常が、とても大切なものを忘れてしまっているのではと思うばかりで、今回、戻ろうと…。でも、安心しました。明日、マルを連れて行きます」
「明日、私は不在ですが、わかるようにしておきますので、お気を付けてお越し下さい」
「ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「マル君、良い里親さんが見つかりましたよ」
「本当ですか、本当にありがとうございます。どんな方ですか…。すいません、本当は私がみなくてはならなかったのに…」
「そんなことは無いですよ。みんな一緒、心配だよね。実はすでに仕事をリタイアされた方で、年齢も有って、子犬は難しいけどと、成犬を探していたご夫婦で、マル君を一目で気に入ってくれましたよ。貴方の事を話したら、近くに来たら、ぜひ、マル君を見に立ち寄って下さいって言ってくれていましたよ。」
「本当にありがたいです。ぜひ、ご挨拶にお伺いさせていただきます」
「マル君も喜ぶね」
「所長さん、本当にありがとうございました…。感謝しきれないです」
「そんなことないよ。私たちの仕事だし、譲渡会を手伝ってくれた愛護団体さんや、職員、そして、譲渡会を広めてくれた皆さん、そして、命を繋ごうと集まってくれた方々、みんなみんな、大切な命、繋ぐことを当たり前に想っている人々だから、礼など必要ないよ」
「今回はマルを引き取っていただいて本当にありがとうございました…」
優しそうなご夫婦の傍から、キラキラと目を輝かせてマルが走って来ました。
拙い文章をお読みいただいて本当にありがとうございました。
若干の補足をさせていただきますと、文章内の時系列は前後しております。その中で、前々回、投稿させていただいたマルの注射は、譲渡会の為の予防注射。息子さんが不安を抱いたセンター職員のぼやきも前所長の影響「孤児の発生=無責任な飼い主」が抜け切っていない故の発言。また、今回、本人は略、故郷に戻る決心は付いていましたが、息子さんの転校が気がかりで、所長さんのご提案に甘える結果になりましたが、偶然は重なるもので、タロを引き取ったご夫婦は、息子さんがネットに上げたマルの情報で譲渡会に訪れ、里親さんとなりました。
今、息子さん(おばあちゃんの)家族は命を繋ぐ譲渡促進の応援や保護団体さんの支援を続けています。
そして、この所長さんと同じ志を持った方が、全国各地で命を繋ぐ大切さを広め、命を繋ぐ選択が当り前になったことで、日本の殺処分はゼロになりました…。
この話はフィクションでしたが、同じような状況に置かれる犬猫が年間数万匹を数え、殺処分されている事は現実です。もしこの様なエンディング、命を繋ぐことを一番に考える社会が当り前の事実になれば、きっと日本の殺処分は無くなります。
0コメント